
先日の
信越五岳トレイルランニングレース2011をサポートしていて、ハイポサーミアで、
リタイアした選手が多くみられました。
数年前は北海道の大雪山系の2つの山で遭難が相次ぎ、合計10名の方が亡くなられました。
その死因は低体温症による凍死でした。
今回の大会では大事に至らなかったですが、夏に凍死してしまうハイポサーミアについて、
知識と対処をご紹介します。

低体温症とはどういうものなのでしょうか?
「体温(直腸温などの中心体温)が35度以下になったために発生するさまざまな症状の総称」
ということです。
通常、恒温動物というのは体温を一定に保つように自律神経が働き、体の機能を正常に保っています。
ところが、こうして体温が正常な場合は体内で絶え間なく行われている生化学的反応が、
温度が下がることで、通常通りに起こらなくなってしまうのです。
ごく軽度の場合は、体温が上がれば自力で回復することも可能です。
しかし低温状態が長時間にわたった場合や重度の場合、そして自律神経の働きが損なわれた場合は、
死に至ることもあります。それが凍死です。
怖いのは、かなり初期の段階で正常な判断能力が失われ、そして30℃以下になると加速度的に体温が
低下していくことです。
【低体温症の推移】
●前兆(36.5〜35度):
意識は正常。手の細かい複雑な動きができない。さむけ、ふるえがはじまる。
●軽症(35〜33度):
無関心状態、すぐ眠る。歩行よろめく。口ごもる話しぶり。ふるえ最大。
(協力的にみえて協力的でない態度や、まともそうに見えてまともでない言動も。)
●中等症(33〜30度) :
33〜32度 会話がのろい。閉じこもる。逆行性健忘。意思不明。運動失調。
31〜30度 錯乱状態。支離滅裂。しだいに応答しなくなる。震え停止。歩行や起立は不可能。
●重症(30度以下)
30〜28度 半昏睡状態。瞳孔散大。心拍、脈拍微弱。呼吸数は半分以下。
28〜25度 昏睡状態。心室細動。
25度以下 腱反射消失。仮死状態。
20度以下 脳波消失。心停止。
【対処法】
風雨に晒されるような場所を避け、衣服が濡れている場合は、それらを乾いた暖かい衣類に替えさせ、
暖かい毛布などで包む。衣類は緩やかで締め付けの少ない物が望ましい。脇の下や鼠蹊部(股下)等の、
太い血管(主に静脈)がある辺りを湯たんぽなどで暖め、ゆっくりと体の中心部から温まるようにする。
この時、無理に動かすと、冷たくなった手足の末端血液が急激に内臓や心臓に送られる結果になるため、
体を温めさせようとして運動させるのは逆効果であり、安静に努める。
※軽度 (前兆〜軽症レベル)
とりあえずどんな方法でもよいので、体を温めるようにして、暖かい甘い飲み物をゆっくり与える。
ただし目が醒めるようにとコーヒーやお茶の類いを与えると、利尿作用で脱水症状や体温低下を起こす
ので避ける。アルコール類は体は火照るが、血管を広げて熱放射を増やし、さらには間脳の体温調節中枢を
麻痺させて震えや代謝亢進などによる体温維持のための反応が起こりにくくなるため、絶対与えてはいけない。
リラックスさせようとしてタバコを与えるのも、末梢血管が収縮して凍傷を起こす危険があるため、やっては
いけない。眠ると代謝や震えによる熱生産が低下するので、十分に温まるまでは覚醒状態を維持させる。
この段階では、少々手荒に扱っても予後はいいので、出来るだけこの段階で対処すべきである。
※中度 〜(中症以上)
中度以上の低体温症は、速やかに医療機関へ搬送する手配を第一とする。
【予防法】
脱水、低栄養は低体温になりやすくする。
水分はできれば電解質の入ったもの(水1リットルに塩5g)、栄養は糖質(果物、カステラ、クッキー、
キャンデーなど)、炭水化物(おにぎり、もち、パン、バナナなど)が望ましい。
アルコールは低体温と脱水を助長するのでダメです。(トレラン中は無いと思いますが、)
その他の情報
・高度と気温:100m高度が増すごとに気温は0.6度下がる
・風速と体感気温(風速0.0は実際の気温と同じ)
風速(m/秒) 体感気温(℃)
0.0 10.0 4.4 -1.1 -6.7 -12.2
2.2 8.9 2.8 -2.8 -8.9 -14.4
4.5 4.4 -2.2 -8.9 -15.6 -22.8
6.7 2.2 -5.6 -12.8 -20.6 -27.8
8.9 0.0 -7.8 -15.6 -23.3 -31.7
11.2 -1.1 -8.9 -17.8 -26.1 -33.9
13.4 -2.2 -10.6 -18.9 -27.8 -36.1
15.6 -2.8 -11.7 -20.0 -29.4 -37.2
例)10℃でも風速が8.9(m/秒)あれば体感気温は0.0℃

大会前日の斑尾高原の12時の気温です。
アウトドアスポーツの鉄則ですが、
「自分の事は自分自身で守る」とあります。
正しい知識と対処方法を身につけ、しっかりとアウトドアリスクマネジメントを
準備した上で、トレイルランニングを楽しみましょう!
Hirose
日本登山医学会メンバー
参考文献
・救急現場のピットフォール(2)外因性疾患 山本保博 荘道社
・ERハンドブック 大塚敏文 インターメディカ
・登山の医学 J.A.ウィルカーソン 東京新聞出版局
・新臨床内科学 第7版 医学書院
・今日の治療指針 2002年版 医学書院
・凍る体−低体温症の恐怖− 舟木上総 山と渓谷社